シリーズ・書写を考える<5>
序章「中国に書写を問う 安徽省師弟旅」その5
テレビ企画「日本・中国書道対決」の中国ロケを終えて帰国した日本書写能力検定委員会(書写検=本部・東京都青梅市)の渡邉啓子師範は25日、関空から羽田に戻り、竹橋の毎日新聞東京本社で開かれた全国年賀はがきコンクール(毎日新聞社、書写検共催)最終審査会に出席した。審査会での帰国報告で渡邉師範は「初めて日本の書写と中国の書の違いが映像で一般に伝えられることで、書写への理解が深まることが期待される」と語った。漢字の祖国・中国の書と日本の学校教育を担う書写の本番対決の模様は2月11日(日)午後8時から日本テレビで放映される。
× ×
◎実用的な書写書道への理解が進むきっかけに ◎
――全国年賀はがきコンクールの概要は?
渡邉師範 課題、自由合わせて2万8千点の応募がありました。使うのはペンでも筆でもどちらでもいいのです。書写は毛筆と硬筆の関連性を重視しますから筆はややねかせて使います。だから毛筆の上手な人は硬筆も上手になるのです。一般書道でそうはいかないのは筆を立てて使うからで、硬筆に応用できないわけです。えんぴつや万年筆はねかせて使いますからね。
――中国の書も筆は立てて使うわけですね。
渡邉師範 そうです。今度の日中対決でも筆の運びの違いは歴然でした。もちろん、どちらがいいということではないのです。一般的な書道と書写の違いがそこにはっきりと現れるということです。学習指導要領で国語科の重要な一分野として定められている書写は正しく整った読み易い文字を目指しています。それが実用的に硬筆でも生かされることはとても大事なことだと思います。学校の先生方が必ずしも書写の専門家ではないので、書写を習っている子どもが学校で筆を立てて使うように直されてしまうことも起きています。そうした書写と一般的書道の相違が映像で伝えられる異議は大きいと思っています。昨日もお話しましたが、書写の文字が中国の書の専門家からも「すばらしい」と認められたこともうれしかったです。
◎文字文化振興に注目される書写5大会◎
――年賀はがきコンクールには今年から文化庁が後援に入ると聞きましたが。
渡辺師範 はいそうです。一昨年7月に文字・活字文化振興法が議員立法で成立しました。主務官庁の文化庁は文字を手書きする力を基盤的な言語力と位置付けておられます。後援をいただくことは書写の普及に寄与するものと喜んでいます。
――書写の全国大会には他にどのようなものがありますか。
渡邉師範 いずれも毎日新聞社との共催ですが、このあとすぐ「毎日学生書初め展覧会」があります。「毎日ひらがなかきかたコンクール」は幼児と小学校低学年が対象です。夏の「毎日学生書写書道展」は全国各地で席書の大会が繰り広げられ、最終審査は毎日東京本社で開かれます。今回の日中書道対決で日本代表として出場した都立拝島高校3年、藤本梨絵さんは昨夏の第30回記念大会で内閣総理大臣賞を獲得した文字通りの学生日本チャンピオンです。最後は「全国硬筆コンクール」ですが昨年の第22回大会では約3万8千点もの参加がありました。この書写5大会は文科省が価値ある文科系コンクールと認定する「学びんピック」事業に全て昨年度指定されました。
――駆け足旅行でしたが終えてみていかがですか。
渡邉師範 ひたすら寒かったです。師範学校に暖房はいっさいないのです。燃料事情のせいでしょうか。それでも学生たちは着物をたくさん着込んで寒さに耐えながら、本当に一生懸命に書に取り組むのです。藤本さんもその姿にはとても感心して学ぶところが多かったようでした。今回の旅行で得たことを生かしながら書を通じた日中の交流をさらに深め、広げていければと思います。
(序章おわり)
× ×
「シリーズ・書写を考える」
国際学力テストで日本の子どもたちの成績が下がったことに端を発した学力論議は、安倍内閣が最大の重要課題と位置付ける教育改革の中心的なテーマでもある。すでに中教審や文科省もこの問題に取り組んでいる中で、学力の基礎として「言葉の力」涵養が大事との意見が強まっている。新しい学習指導要領でも「言葉の力」がキーワードになる見通しだ。また、一昨年に成立した文字・活字文化振興法を展開していく上で基盤的な言語力として「文字を書く」力を重視する機運がある。一方で、書写は学校教育の中で十分な取り組みの対象になってこなかったとも言われ、未履修問題とのからみで文科省が実施中の国語科書写についての履修実態調査結果も注目される。我が国の伝統文化を支える基礎である文字にかつてない関心が高まる今、「書写を考える」シリーズを始めたい。
おおまかなシリーズ構成は以下の通り(いずれも仮題)。第1部は2月下旬の連載開始予定。
第1部「総論・現代の書写教育~大平恵理氏聞き書き」
第2部「書写に見る一芸の力~多様化する大学入試で」
第3部「学校書写教育の現場」
第4部「現代寺子屋論~草の根の書塾」
第5部「文字文化振興と行政課題」
ご意見頂いた記事