シリーズ・書写を考える<1>
国際学力テストで日本の子どもたちの成績が下がったことに端を発した学力論議は、安倍内閣が最大の重要課題と位置付ける教育改革の中心的なテーマでもある。すでに中教審や文科省もこの問題に取り組んでいる中で、学力の基礎として「言葉の力」涵養が大事との意見が強まっている。新しい学習指導要領でも「言葉の力」がキーワードになる見通しだ。また、一昨年に成立した文字・活字文化振興法を展開していく上で基盤的な言語力として「文字を書く」力を重視する機運がある。一方で、書写は学校教育の中で十分な取り組みの対象になってこなかったとも言われ、未履修問題とのからみで文科省が実施中の国語科書写についての履修実態調査結果も注目される。我が国の伝統文化を支える基礎である文字にかつてない関心が高まる今、「書写を考える」シリーズを始めたい。
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序章
ライブ連載「中国に書写を問う 安徽省師弟旅」
日中が書で対決したら? こんな企画を日本のテレビ局が考えた。それも若者の達人同士が腕を競い、共に漢字を使う両国の交流を深めようという狙い。その日本代表に06年夏の「毎日学生書写書道展」(毎日新聞社、日本書写能力検定委員会共催)で内閣総理大臣賞に輝いた都立拝島高校3年、藤本梨絵さん(18)が選ばれた。彼女を育てた日本書写能力検定員会(書写検)=本部・東京都青梅市=の渡邉啓子師範(34)が付き添って2人は22日午前、成田から中国安徽省(あんきしょう)へ飛び立った。「シリーズ・書写を考える」の序章となるこの連載では渡邉師範にスポットを当て、書の「実家」とも言える中国大陸で文字と書写について考えてみたい。メールインタビューによる遠距離ライブ構成を試みる。
(その1) 書の「実家」中国へ8度目の訪問
――8度目の中国訪問だそうですね。
渡邉 小学校6年のとき、書写検が始めた日中学生文化交流のメンバーとして初めて中国に行きました。書写検はその後も蘇州市などのご協力をいただいて書写での交流を続けてきましたので、その都度訪問しているうちに7度も行かせていただきました。上海、南京、北京、西安などに行きました。
――中国に友人も多いですね。
渡邉 最初に一緒になった女子とずっと交流するなど何人もの顔が思い浮かびます。そうした友人たちがいる国を訪問するのは格別な思いがあります。地元の青梅市では日中友好協会理事も務めて日ごろから交流を心がけるようにしてきました。お国柄もゆったりとしているので、まさに実家に帰る感じです。
――書写を通じて交流してきたわけですが、いつもどういうことを感じますか。
渡邉 世界には多くの国がありますが、同じ漢字を使うところがとても印象的に感じます。私は中国語はできないのですが、筆談で十分に通じますし。ただ、同じ字でも意味が違うことなどもあります。手紙は向こうではトイレットペーパーを意味するとか。
――藤本梨絵さんがグランプリを獲得した学生書写書道展とはどういう大会ですか。
渡邉 公募と席書の部があって、内閣総理大臣賞は席書の部から選ばれます。席書は会場でお手本を見ずに課題の文字を書くもので、日ごろの練習はもちろんですが、本番の強さなどにも左右されます。昨年は予選応募作品8,370点の中より選ばれた半数の方が香港を含む29会場での決勝大会に参加し、毎日新聞社で最終審査会が行われました。梨絵さんとは中学3年生の終りに「3年後には内閣総理大臣賞がもらえほどに上達しよう」と固い約束をして日々辛い練習に耐えてきました。
――文字通り若者チャンピオンなのですね。日中どちらが書はうまいのですかね。
渡邉 双方にそれぞれ良いところがありますから。
(「日中書写対決」は日本テレビで2月4日(日)20時から放映予定です)
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