シリーズ・書写を考える<2>
序章「中国に書写を問う 安徽省師弟旅」その2
日本書写能力検定委員会(書写検)の渡邉啓子師範は、テレビ局企画「日本・中国 書道対決」に出演する06年毎日学生書写書道展チャンピオン(内閣総理大臣賞受賞)の都立拝島高校3年、藤本梨絵さんに付き添って予定通り22日、全日空機で中国・杭州に到着。番組制作クルーとともに杭州から陸路、世界遺産として有名な安徽省の黄山に入った。 しかし、雨中の車列行進となって大幅に到着が遅れたうえ、想定の範囲内ではあったが通信事情が完全ではなく、電子メールインタビューが不可能な状態が続いた。このため本日は出発前に聞いた書写検の過去の日中学生交流を紹介する。
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◎きっかけは毎日学生書写書道展◎
書写検が中国との交流を始めたのは、1982年の春休みのことです。毎日学生書写書道展(毎日新聞社、日本書写能力検定委員会共催)の大会参加者から希望者を募る形で行われた交流に加わったのです。団長は毎日新聞社学生新聞本部(現・「教育と新聞」推進本部)の白木東洋本部長さんでした。日中国交10周年の年でした。
当時まだ書写検は全国組織になる前の段階で母体の琴河原学園としての参加でしたが、吉田宏会長をはじめ、先生、生徒がたくさん参加しました。他の書塾の参加者もいましたが書写検関係が一番大きな団体でした。高校生は漢詩作品などを書き、小中学生は全国大会の課題に準じた課題を席書きして交流しました。
その後、書写検は3年に1回ぐらい交流会に参加しました。吉田会長は「日本の文化はひらがなだから」と、ひらがなにローマ字の読みなどをつけて手本集をつくり、それを持って交流した時もありました。中国にとっては、妹や弟と交流している目線だったと思います。
◎中国も驚いた日本の書写教材◎
その後しばらくあいて2000年、吉田会長が団長として参加者202名という大規模な訪中が行われ、文化交流が再開されました。この時は毛筆行書、毛筆連綿等検定も8検定に増え、一芸を学ぶ書写検の内容が整っていました。目的地は以前から親交の深かった蘇州市でした。なぜ蘇州市かというと最初の訪問で私たちが知り合った少女が蘇州市の出身だったからです。
202名で訪れたので、市政府が対応する騒ぎになりました。市の教育長にあたる副市長が日本の子供たちの実力をほめて下さいました。お土産にした検定教材の手本集にも驚き「日本には素晴らしい文字教育の制度がある。このようなものは日本に学ぶべきだ」とさへ中国の書教育担当者に話していました。朱永新さんという副市長でしたが、学生時代日本の上智大学で学んだことのある方で日本語を話すこともでき、日本文化に理解もありました。書写検は翌年には中国から子どもたちを日本に招くなど交流を深めました。
今回、書を通しての日中交流テレビ企画に学生書写書道展で優秀な成績をおさめた藤本さんが選ばれたことに私どものこれまでの日中交流活動と深く通ずるものを感じています。
(「日中書写対決」は日本テレビで2月4日、日曜日20時から放映予定です)
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「シリーズ・書写を考える」
国際学力テストで日本の子どもたちの成績が下がったことに端を発した学力論議は、安倍内閣が最大の重要課題と位置付ける教育改革の中心的なテーマでもある。すでに中教審や文科省もこの問題に取り組んでいる中で、学力の基礎として「言葉の力」涵養が大事との意見が強まっている。新しい学習指導要領でも「言葉の力」がキーワードになる見通しだ。また、一昨年に成立した文字・活字文化振興法を展開していく上で基盤的な言語力として「文字を書く」力を重視する機運がある。一方で、書写は学校教育の中で十分な取り組みの対象になってこなかったとも言われ、未履修問題とのからみで文科省が実施中の国語科書写についての履修実態調査結果も注目される。我が国の伝統文化を支える基礎である文字にかつてない関心が高まる今、「書写を考える」シリーズを始めたい。
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