2011年1 月23日 (日)

NIEの参考に①

 

 ジュニア紙人気


 ジュニア紙、特に毎日小学生新聞に注目が集まっています。同紙
がもう3年近くも対前月比の部数増が続いていることや地域紙で毎
小と提携して独自のジュニア紙発行を目指すところがあったりする
からです。読売新聞がこの春から週刊の小学生新聞を発行すると伝
えられることもジュニア紙への注目を高めることになっているよう
です。今日は大人の新聞を離れて、注目される毎小を中心にジュニ
ア紙を考えてみたいと思います。

 毎小は今年で創刊75周年を迎える日刊紙。子どもの肩幅に合わ
せてタブロイド版で作られています。他に日刊の朝日小学生新聞が
あり、両紙が日本を代表するジュニア紙と言えるでしょう。少しデ
ータは古いですが、10年前の私の調べでは世界に日刊のジュニア
紙はフイリピンに1例が見つかっただけでした。と思います。部数
増の理由の一つに上げられるのが、中部圏での毎日販売網の見直し。
周辺部はほとんど毎日の配達を中日新聞に預けるようになりました。
それで毎小を初めて見た中日新聞販売店が、新商品として興味を示
して売ってくれていると聞きました。また日能研など塾と連携しサ
ンプルを配ってもらうなどの方法で知名度を上げたことも指摘され
ています。

 しかし、毎小編集部のためにも特筆したいのは、やはり紙面改革
の力なのです。2007年以来の大幅な紙面改革で、それまで多かった
勉強系の読み物を中面に整理し、1面はニュースと解説に重点を置
く講成にしました。本紙のリライトではなく、「日々のニュースを
分かりやすく伝える」というコンセプトを徹底したことも受け入れ
られたようです。NHK出身のジャーナリスト、池上彰さんの起用も大
当たり。昨年、フジテレビの「ミスターニュース」で池上さんが毎
小を紹介したところ、1週間で800件もの問い合わせがあったそうで
す。

 ただ、こうした毎小の個別事情を超えて今、ジュニア紙に注目が
集まっています。特に地方紙が併読紙としてジュニア紙の創刊を企
画するところが多いようなのです。毎小にも地方紙からの視察が時
にあるようですが、ジュニア紙が意外に製作コストがかることを知
って独自製作をあきらめるケースがあるようです。それなら、と毎
小のコンテンツを買って自社製のジュニア紙を作ったのが琉球新報
の「新報小中学生新聞 りゅうPON!」(週刊)。毎日関係者に
よると他にもいくつかの新聞社と毎小コンテンツの提携話があった
そうです。

 では、こうしたジュニア紙人気の奥底にあるものは何なのでしょ
うか。新聞本紙をめぐる環境のあまりの冷え込みでジュニア紙に活
路を求めた、という見方もあるようですが、私は新聞の持つ本来の
教育機能が認められてきたのだと考えたいのです。その一つの流れ
が、この4月から小学校で本格的にスタートする新しい教育課程に
象徴されていることはこのマガジンを読んでおられる先生方なら釈
迦に説法です。学校の授業のやり方など教育課程のもとになる学習
指導要領の今回の改訂で、これまでほとんど触れられていなかった
新聞を利用した学習指導を展開することが随所に書かれたことが大
きいわけですね。自分の頭で考えるNIEの良さが認められているわけ
で、まさにNIEの勧めと言えるでしょう。

 ここで課題となるのが、ジュニア紙がNIEに耐えうるか、という
ことです。日刊ではあるが本紙ほどリアルタイムで編集製作されて
いないため速報性で本紙に劣ることは否めません。また、ジュニア
紙は読み物の記事にもスペースを割いているので、ニュースのバラ
エティがない、などの弱点があります。しかし一方で、ニュース記
事が子どもでもわかる様に噛み砕いて、視点すら変えながら編集さ
れている強みもあります。また、子どもたちに読んでほしいニュー
スがセレクトされている利点もあるのは言うまでもありません。学
校の先生方にはぜひジュニア紙でのNIE授業の展開に取り組んでいた
だきたいと願います。

 実はさらに大きな壁は、NIE展開の上でジュニア紙の最大の弱み
が選択肢の少なさにあるということです。小学校の場合、現状では
毎小,朝小のほかにほとんどないと言っていい状況で、各紙が共同
歩調を取ってNIEを推進する上では不都合なことになります。しかし、
将来の新聞読者を育てるためにも小学校でのジュニア紙導入を新聞
社、学校あるいは方法を工夫すれば国も一体となってぜひ進めてほ
しいと思います。

 

 

 


 

2007年5 月 5日 (土)

シリーズ・書写を考える<9>

                   第1部「書写教育の今日的意義を問う」
                                      ~大平恵理氏インタビュー~
 その4<続・子どもの変容>
  「書写を習うすべての子が字は上手になる」を信条とする日本書写能力検定委員会(書写検)首席副会長、大平恵理氏は、その実例をいくつも挙げた。学ぶ教材や指導者、学習のノウハウが、上達するために重要な役割を果たす、というのが同氏の考え方だ。一般に学習、習い事で上達するための前提として不可欠と思われる「忍耐力・集中力」については、逆に「上達することで養われるもの」と力説した。紙一重を積み重ねるようにして上達していく書写の取り組みがそれを実現すると説明する。前回に続いて書写がもたらす子どもの変容ぶりを聴いた。

     養われる忍耐力・集中力で学力も向上
――本当に上手になった実例をいくつか挙げることができますか?
大平 はい。たくさんの子ども達が結果を出しています。一番印象深い経験では、小学生の頃なかなか結果まで結びつかなかった生徒さんが、初めて中学2年生の時に書写の全国大会で大きな賞をいただき、それが大会全参加者の最高峰となる内閣総理大臣賞だった、ということがあります。結果にこだわり過ぎるのはよくありませんが、全国大会などの成績なども明確な結果の一つと言えると思います。中にはずっと習っているけれども、結果を出せたという実感をつかむことができなかったという方もいらっしゃるかもしれません。文字感覚を養うことで時間がかかってしまうことも多くあるからなのですが、これは、学ぶ本人よりも導く先生や親など学ぶ条件を与える人が大いに工夫、努力すべきところです。私などもまだまだ努力が足りないと反省するところです。

書写検は毎日新聞社と共催で書写関連の5つの全国大会を行っている。「毎日ひらがなかきかたコンクール」「毎日全国学生書写書道展」「全国硬筆コンクール」「全国年賀はがきコンクール」「毎日学生書き初め展覧会」だ。これらはいずれも文部科学省が、競い合って能力を伸ばすことを奨励するために実施している「学びんピック」事業に毎年認定されている。コンクールと書写学習については項を改めて取り上げたい。

――結局、忍耐強く取り組むことが上達のポイントのように思いますが。
大平 本人が忍耐強く取り組むことが初めからできるのであれば、それに越したことはありません。でも、上達の条件として忍耐強く取り組むことを挙げることよりも、上達するなかで、忍耐強さが培われると言ったほうが的確な捉え方だと思います。学ぶ教材や指導者、学習のノウハウが、上達するために重要な役割を果たすと思います。どんな物事でも上達に、忍耐、根気を強いるとしたら、上達とは、とても苦しいこと、辛いこと、楽しくないことになるのではないでしょうか。そうではなくて上達の中で、忍耐、根気が培われ、養われるとなれば、それは本人にとって宝物をつかむようなことだと言えるでしょう。

――書写に忍耐を呼び込む特別な作用があるのでしょうか?
大平 書写の上達の過程では、大きな結果に照準を当てた学び方をするよりも、1枚練習した結果、1枚前の作品より一箇所でも上達したことを成果とすることがベストです。そのような小さな成果を軽視すると、上達への道を歩むことは難しくなります。小さな成果を一つ一つ積み重ねることなら誰にでもできることであり、紙一重でも何枚も重なれば厚みが出るのと同じで、そのような取り組みに、書写はとても適した学習の性質を持っていると思います。文字は書いて、目で明確に上達を見比べることができますから。まさしく目に見えて上達するのです。

                                         人格形成にも大きく寄与
―名古屋の書家で「書写教育が人格形成に寄与する点」をまとめた人がいます。 一本の線を引くにも求められる集中力とやり遂げる忍耐力が養われることをその第一に挙げていますがそういうことでしょうか。
大平 「書写教育」に限らず、特に「教育」と名のつく事柄の先には「人格形成」を見据えておくことはとても大切だと思います。その先にそれを見ていないと「書写」を学んだ結果、「人格形成」を妨げることもあり得るからです。例えば大会参加にあたっても、大きな賞を受賞することが書写を学ぶ目的になり、その過程での経験から育まれる人間的な豊かさに気付かなかったりするからです。
書写教育において、具体的に養われ培われる「集中力」や「忍耐力」が人格形成につながっていることを挙げると同時に、書写上達の過程、継続して学ぶ過程で乗り超えていく精神的な成長を、大局的に豊かな経験として人格形成に寄与する点として、最も強調して挙げておきたいと思います。

――変容した成果がどのような面で現れているとお考えですか。例えば学校の勉強についてですが。
  大平 集中力、吸収力の向上が挙げられます。具体的には話を聞く態度が養われていることです。そのため、長時間一つの物事に取り組む姿勢や、他の条件も整えば、学校の勉強にも成果が現れている様子が見られます。それと、継続する中では成績に結果が出る時も、出ない時もあります。いろいろな場面を乗りこえる中で、周りの人達への感謝の気持ち、時には競い合うこともあるライバルや後輩などを思いやる気持ちが育まれ、心の温かさのある人間性が持てるようになっている様子が窺えます。この他にも前述の忍耐力、素直さなどいろいろな要素が、学校の成績や人を思いやる人間性として表われている、と変容の結果を感じています。

                                                ×       ×
大平恵理氏 1965年生まれ、東京都出身。小学2年生から書写を始め、吉田宏氏(書写検会長)に師事、数々の全国大会でグランプリを受賞。大東文化大学に進み書写書道を学ぶ。2005年から書写検首席副会長に就任、お手本、教材作成、講習会での指導を担当。著書に、字を書く楽しみ再発見!をキャッチフレーズにした「えんぴつ書き練習帳」(金園社)などがある。元来は左利きで、幼少の頃はよく鏡文字を書いていたなどのエピソードを残す。2児の母。座右の銘 「誠意、正心、修身、斉家、治国、平天下、格物、致知」(「大学」八条目)
                                                       ×       ×
  日本の子どもたちの学力を高めるためには国語力をつけなくてはいけないという考えが強まっている。今年度中にもまとまる国の次期学習指導要領では国語力の涵養が柱になる見通しだ。国語力の中心は「言葉」への理解度とそれを使う力であり、言い換えれば「言葉の力」の強化が求められている。教育タイムズではこの観点から言語能力の基盤と言える「手書き」文字に注目、それを学ぶ書写教育の今日的意義を探る「シリーズ・書写を考える」を連載することにした。第1部は書写教育の全般について大平恵理氏へのインタビューを中心に構成、おおむね毎週1回、週はじめに更新する。

2007年4 月25日 (水)

シリーズ・書写を考える<8>

                        第1部「書写教育の今日的意義を問う」
                                                 ~大平恵理氏インタビュー~
 その3<子どもの変容>
  教育で最も大事なことは、教育の結果子どもがどう変わるか、である。昨今の教育の混迷は意図するように子どもが変容しないところに原因があると言って過言ではないだろう。このシリーズは、書写教育が子どもの良き変容に大きな効果を発揮することから、その背景を探ろうと企画したとも言える。書写教育の現場で多くの子どもたちに文字通り手を取って教えてきた日本書写能力検定委員会(書写検)首席副会長、大平恵理氏に体験的変容論を語ってもらった。(文中敬称略)

        上手い、下手を左右する文字感覚を磨こう
 ――まず技術面からお聞きします。大平理論では「どのような子も必ず書写はうまくなる」としていますが、我が身を振り返り信じられません。大平理論の詳細を教えていただけますか?
 大平 書写の場合、字形の整え方などを理論的に説明することができます。例えば、「横画は少し右上がりに平行に書くと好い」などです。書写の学習過程は、まず字形の整え方などを理論的に理解し覚える段階、次に実際に書いて上手く書けるようになる段階とあります。そして、覚えることと書けるようになることは連鎖していきます。具体的には、形の整え方を覚え実際に書いてみて、繰り返し書いて上手くいく、やっぱり上手く書けない、というような具合になるわけです。

 ――手筋は遺伝だということにはならいのですか。
 大平 字形の整え方を覚えるということは他の学習と同じで、どのくらい覚えたかということを成果として問うことができます。しかし、実際に上手く書くということは他の学習と違って、一人一人が持つ、それまでに知らず知らずに養われた文字感覚に、大きく左右されるという性質があります。そのため、「字を上手く書こう、学ぼう」と意識した時には、書写学習の過程が覚えることと上手に書けることが連鎖していることもあって、手すじや親からの遺伝のようなもともと備わったものにより、あたかも上達が決まっているように感じてしまうのではないでしょうか。
  文字には上手い子(人)、そうでない子(人)があるのではなく、文字感覚を養いながら、理論的に字形の整え方などをきちんと学べば、必ず書写は上手くなると考えています。一般に言われる上手い子(人)とそうでない子(人)の差は、単にそれまで養われてきた文字感覚の差であり、書写学習にあたって文字感覚を養う時間がかかるか、かからないかの差だけなのです。

  ――上手い,下手は文字感覚の差だと言われましたが、文字感覚とは何を指していますか。
  大平 書写書道作品の文字や街中の看板文字でも、ノートに書いた文字でも「この字好きだな」と感じたり「素晴らしい」と感動したり、ちょっと不快に思ったり、落ち着かない気持ちになったり、と文字に対して感覚的に感じ取るものがあります。また、逆に何も感じず、文字を意識することもなく過ごしているケースもあるかもしれません。
 触れた文字に対して受け取る感覚が文字感覚であり、感覚は、文字を意識することから養われ始め、そこからの学習経験により、徐々に磨かれていきます。敢えて順番をつけるなら、まず第1段は、縦画の方向をしっかりさせることです。縦画が倒れると文字全体も傾きます。第2段としては何本もある横画を等間隔に、平行に書くことです。すると文字は整然とします。この2点が一番大きく文字感覚を養う柱になります。第3には、バランスです。人間もそうですが、狭い平均台に乗るとしましょう。大体の皆さんが両手を広げてバランスをとると思います。この時の人の姿と同じように、多くの文字が左右一箇所だけ幅をとって左右のバランスをとります。
ここまでは、縦横の方向ですが、次には斜めの点画に対するものがあります。横画、縦画はほとんどが一定の方向を保ちますが、斜めの画はあらゆる角度があるのでとても難しいです。書き出しではわずか0.1mmぐらいの差でも、行き着く先の終筆は大きく開いてしまうからです。更には横画、縦画、斜めの画の接し方、終筆のとめ・はね・はらいの書き方等があります。特に要所を理解しやすくするのが毛筆学習です。

  ――――途中ですが、形を整えるいくつかの要素を備えた文字を良しとする感覚が優れている、というのはどうしてしょうか?

 大平 そこまで及ぶと、とても難しいことになりますが、理屈ぬきに多くの人が「いい字だなぁ」と直感的に感じることが大事なのだと思います。これらの事に気をつけて文字を見たり、書いたりするうちに、芸術的感性による文字感覚は別として、一般的に言う文字感覚というものは磨かれていきます。日常の一回一回の小さな経験が文字感覚を養っていくのです。ただ漠然と文字に触れるのでなく、書写など改まって学ぶ機会を持ち、よい文字の要所をつかんで文字に触れると、より精度の高い文字感覚が養われていくと言えると思います。文字感覚も遺伝のように思えてしまうのは、目に見えない本人の意識に左右されているからではないでしょうか。
 
 話は最初から書写の技術的側面に深く入ってしまったが、次回は書写教育の精神的側面にも触れていきたい。
                      ×             ×
大平恵理氏 1965年生まれ、東京都出身。小学2年生から書写を始め、吉田宏氏(書写検会長)に師事、数々の全国大会でグランプリを受賞。大東文化大学に進み書写書道を学ぶ。2005年から書写検首席副会長に就任、お手本、教材作成、講習会での指導を担当。著書に、字を書く楽しみ再発見!をキャッチフレーズにした「えんぴつ書き練習帳」(金園社)などがある。元来は左利きで、幼少の頃はよく鏡文字を書いていたなどのエピソードを残す。2児の母。座右の銘 「誠意、正心、修身、斉家、治国、平天下、格物、致知」(「大学」八条目)
                                    ×            ×
  日本の子どもたちの学力を高めるためには国語力をつけなくてはいけないという考えが強まっている。今年度中にもまとまる国の次期学習指導要領では国語力の涵養が柱になる見通しだ。国語力の中心は「言葉」への理解度とそれを使う力であり、言い換えれば「言葉の力」の強化が求められている。教育タイムズではこの観点から言語能力の基盤と言える「手書き」文字に注目、それを学ぶ書写教育の今日的意義を探る「シリーズ・書写を考える」を連載することにした。第1部は書写教育の全般について大平恵理氏へのインタビューを中心に構成、おおむね毎週1回、週はじめに更新する。

2007年4 月18日 (水)

シリーズ・書写を考える<7>

           第1部「書写教育の今日的意義を問う」
                              ~大平恵理氏インタビュー~

その2<書写と書道>
  書写と書道はどう違うのか? 誰もが持つもっともな疑問だろう。我が国屈指の書写団体である日本書写能力検定委員会(書写検、本部・東京都青梅市)の大平恵理・首席副会長はその違いを明確にしながらも文字文化を追求するうえで両者は密接に関連するとの考えを示した。書道と対比しながら書写の教育的、文化的意味合いを考えてみたい。

――書写は正式な呼び方ですか。書道との違いはありますか。
大平 「書写」とは文科省が定める授業の大綱的な基準の学習指導要領で小中学校国語科の言語事項として取り上げられている公式な呼び方です。文字を「正しく整えて読みやすく書く」ことが目的です。硬筆と毛筆を関連付けて学習が行われます。中学生では、これに「速く書く」ことも加わります。一方、「書道」は芸術科目として学校では高等学校以上の科目として位置づけられています。

――この2月、民放が「日中書道対決」という番組を流しました。書道対決ということですが日本側代表は書写検生徒の高校3年、藤本梨絵さんでしたね。大平先生は日中のどちらが上手だと思いましたか。
(番組は4チャンネルが制作・放映した。その中国ロケの模様を報じた<書写シリーズ・序章「安徽省師弟旅」>にも1000件ものアクセスが殺到するなど大きな反響を呼び「書写というものを初めて認識した」などの声も寄せられた)。 

大平 どちらが上手とは言い難いと思っています。藤本さんは書写の基礎力の上に表現しており、一方中国の学生さんは古典学習の基礎力の上に表現しており、双方異なる学習観点の上に書かれた作品でした。専門性としては古典学習も重要視すべきと考える一方、広く一般には日常の硬筆にも関連付けて、書写学習を奨励したほうがいいとも考えています。

――中国の日常生活は簡体字の硬筆で行われていると聞いています。日本の場合も日常生活ではそれほど毛筆と縁がありませんが、毛筆書写の現代的意義はどこにあると考えますか。
大平 大きく2つの意義を考えています。1つ目は、日本語の文字は毛筆文字で出来上がったため、とめ、はね、はらいの書き方、点画の接し方を明確に学べるということです。2つ目は、日本の文字の成り立ちから言って、文字を文化として深く親しむには毛筆文字が最適と考えます。

――毛筆書写について教育的側面からもっとご説明いただけますか?
 大平 筆に墨を含ませ、筆から紙へと墨が伝わり、文字を描き出します。含ませた量によって墨の紙へ伝わるスピードが変わり、筆を運ぶ速さも加減したりします。折り返し、払い、書く点画に合わせて呼吸も整えます。書かれた文字からは息遣いさえ感じるものです。毛筆で文字を書くことは、硬筆以上に集中し、落ち着いて物事に取り組む姿勢を養うことができると感じています。

 ――書写と異なり、いわゆる芸術書道は美を追い求める余り文字から離れすぎて、早い話ほとんど字形というものと無関係とさえ言えるケースがあるように思います。文字文化という点ではその発展に関連しないのではないかとさえ思わないでもないのですがどう思われますか?
 大平 大いに関連すると思います。創造美を追求する芸術書道により、文字に親しむ視点がとても情操豊かなものになると思います。更には、その視点に止まらず、(書写のように)文字を正しく整えて書くことや、現代に使用する硬筆との関連まで視野に入れた文字文化を追求する姿勢が大切だと考えます。
                                                       ×       ×
Ohira_2 大平恵理氏 1965年生まれ、東京都出身。小学2年生から書写を始め、吉田宏氏(書写検会長)に師事、数々の全国大会でグランプリを受賞。大東文化大学に進み書写書道を学ぶ。2005年から書写検首席副会長に就任、お手本、教材作成、講習会での指導を担当。著書に、字を書く楽しみ再発見!をキャッチフレーズにした「えんぴつ書き練習帳」(金園社)などがある。元来は左利きで、幼少の頃はよく鏡文字を書いていたなどのエピソードを残す。2児の母。座右の銘 「誠意、正心、修身、斉家、治国、平天下、格物、致知」(「大学」八条目)

                                                       ×       ×
  日本の子どもたちの学力を高めるためには国語力をつけなくてはいけないという考えが強まっている。今年度中にもまとまる国の次期学習指導要領では国語力の涵養が柱になる見通しだ。国語力の中心は「言葉」への理解度とそれを使う力であり、言い換えれば「言葉の力」の強化が求められている。教育タイムズではこの観点から言語能力の基盤と言える「手書き」文字に注目、それを学ぶ書写教育の今日的意義を探る「シリーズ・書写を考える」を連載することにした。第1部は書写教育の全般について大平恵理氏へのインタビューを中心に構成、おおむね毎週1回、月曜日に更新する。

2007年4 月 9日 (月)

シリーズ・書写を考える<6>第一部「書写教育の今日的意義を問う」①一芸の春

  日本の子どもたちの学力を高めるためには国語力をつけなくてはいけないという考えが強まっている。今年度中にもまとまる国の次期学習指導要領では国語力の涵養が柱になる見通しだ。国語力の中心は「言葉」への理解度とそれを使う力であり、言い換えれば「言葉の力」の強化が求められている。教育タイムズではこの観点から言語能力の基盤と言える「手書き」文字に注目、それを学ぶ書写教育の今日的意義を探る「シリーズ・書写を考える」を連載することにした。そのプロローグとなる序章<中国に書写を問う・安徽省師弟旅>は評論・ルポコーナーで1月22日から同26日まで5回にわたり掲載した。今回の第1部は書写教育の全般について日本書写能力検定委員会首席副会長、大平恵理氏へのインタビューを中心に構成、おおむね毎週1回、月曜日に更新する。

          第1部「書写教育の今日的意義を問う」
                               ~大平恵理氏インタビュー~

 その1<「一芸」の春>

  「書写」という言葉は聞きなれない人が多いかもしれない。書道の方が耳に慣れているが、学習指導要領に定義されたれっきとした教科の一部の名称だ。芸術書道に対して「学校書道」とも定義できるもので、文字を正しく整えて読みやすく書くことがその真髄である。日本書写能力検定員会(略称・書写検、本部・東京都青梅市)は我が国屈指の書写教育団体であり、全国各地に書写検の指導法と教材による書塾が展開している。民放テレビ局がこの1月に企画放映した番組「日中書道対決」では毎日新聞社と書写検が共催する毎日全国学生書写書道展06年大会で内閣総理大臣賞を獲得した都立高校3年生が日本代表に選ばれ中国に渡った。“ホームグラウンドジャッジ”で書写検代表選手は惜しくも敗れたが、その書写検文字の美しさは多くの日本人視聴者に感動を与えた。

 その書写検ホームページ(http://www.shoshaken.com/)を開いて目に付いたのは<入試に生きる書写書道>という特集である。いわゆる「一芸」で培った力が認められて大学に合格する書写検生が増えているということをアピールしているわけだ。

――今春はどういう状況なのですか?
 大平 今年は、6つの大学、8学科で計8人の合格報告がありました。一芸を生かしてAO入試や自己推薦入試等で合格を果たしているわけですが、新たな大学や専門分野に合格している一方で、同じ大学が継続して評価して下さっています。このような評価方法が広がっていること、一芸への信頼が高まっていることの両面を感じます。また、合格を果たされた皆さんについては、一芸を磨く中で自分に対する自信や誇りが着実に育まれて来たことを感じます。

 今春の合格実績では特に早稲田大学教育学部に3人を送り込んでいるのが目立つ。教育学部は自己推薦入試枠を充実させ、文系、理系の全国大会で優秀な成績をおさめた者や生徒会活動に打ちこんだ生徒等に光を当てる選考を行っている。単にペーパー学力だけでは分からない「学ぶ力」という潜在能力を評価するもので、早大では追跡調査でも選考の正しさが証明されているとしている。ペーパー試験の学力によらず、この潜在能力と今後への志を重視する自己推薦入試やAO入試は広がりを見せており、文科省は国立大学でも来年度以降、自己推薦とAO入試で50%までは合格させてよいとする方向を打ち出した。
 
――書写を学ぶことで身につく一芸の力とは何ですか? 
大平 まず、何より正しく整えて読みやすく書く力があげられます。これは看板書き、賞状書きなど実用に役立つ力でもあります。一芸として書く能力がつく中で、心の力として、一つの事に根気よく取り組む忍耐力、困難に遭っても最後までやり抜き意志を貫く精神力などが養われます。そして一芸の力も、両親、先輩、先生、お世話になった方を敬う心、仲間や後輩に慈しみや思いやりの心を持ててこそ、価値があると思います。

  書写検は毎日新聞と共催で全国硬筆コンクールなど5つの書写全国大会を共催している。いずれも文科省が優秀な全国大会にお墨付きを与える「学びんピック」認定大会である。子どもたちはコンクールで他の子どもたちと競い合い、自分の能力をぎりぎりまで高める努力を継続することを身につける。また、階段を上がるような検定システムも学ぶ力を養うことに効果があるという。

――書写検の検定システムはどのようなものですか?
大平 「順序よく学べば、必ず上達する」が検定システムで一貫している考え方です。硬筆(えんぴつ・ペン)、毛筆基礎(半紙)、行書、草書、古典かな、細字など種別で分けた13検定を設けています。全ての検定が、段階を追った120課題で構成されており、課題に挑戦するごとにS(4点)・A(3点)・B(2点)・C(1点)・D(不合格)の五段階評価をします。累計点による段級位の認定、繰り返しチャレンジする再受験の導入、指導者ライセンス制度の併設などが特徴です。

 
――なかなか遠大な検定システムですが、学習塾に行かなくとも書写にまい進していれば希望の大学に入れると言い切れますか。
大平 書写にまい進していれば希望の大学に入れるとも、逆に学習塾に行っていれば希望の大学に入れるとも言い切れないと思います。昨今、AO入試や自己推薦入試など一般入試以外に多様な入試制度が設けられ、書写という一芸を生かして希望の大学に合格を果たす方が増えています。でもこれは、書写にまい進して合格したのでなく、一芸を磨く中で豊かな人間性が育まれたからと考えています。

Ohira_3 大平恵理氏 1965年生まれ、東京都出身。小学2年生から書写を始め、吉田宏氏(書写検会長)に師事、数々の全国大会でグランプリを受賞。大東文化大学に進み書写書道を学ぶ。2005年から書写検首席副会長に就任、お手本、教材作成、講習会での指導を担当。著書に、字を書く楽しみ再発見!をキャッチフレーズにした「えんぴつ書き練習帳」(金園社)などがある。元来は左利きで、幼少の頃はよく鏡文字を書いていたなどのエピソードを残す。2児の母。

2007年3 月11日 (日)

学校新聞王国・山形はなぜ生まれたか

  その年、山形県庄内地方は猛烈な残暑だったが大会も熱気にあふれていた。1999年8月末、鶴岡市内で開かれた全国新聞教育研究協議会(全新研)年次大会。全新研と全国小・中学校・PTA新聞コンクールを共催している毎日新聞から参加した私は、いつもの全新研の集まりと違う様子に驚いた。若手の先生方の姿がずいぶんと目立つのだ。何十人もの若い先生が規律よく、暑さをものともせず運営に汗を流している。
「これが山形の強さなんですよ」。大会で12代全新研会長に選ばれたばかりの井上英昭・東京都町田市立町田第一中校長(当時)がうなった。若手が少ない東京ではみられない熱気あふれる情景がそうさせたのか、日頃クールな井上がインタビューに答え、熱い調子で「学校新聞は学校の公器だと思うのです」と何度も「公器」を強調したのが印象的だった。その様子は同年8月24日毎日朝刊「ひと」欄にも残っている。

  その若手の群れの中に、30代半ばながらコンクールですでに3度にわたり内閣総理大臣賞を獲得し全国に名がとどろく出嶋睦子教諭の姿もあった。しかし、直接ことばを交わしたのは06年6月、やはり鶴岡市の湯ノ沢温泉で開かれた全新研OB組織「パピルス」総会が初めてだった。
  「全新研はもっと書く教育に力をいれるべし」。お客の身を忘れて全新研を叱咤激励するスピーチをした私は、懇親会の場で地元からあいさつに見えられた若手、中堅の先生方をつかまえては「学校新聞王国・山形の秘密はどこにあるか」をぶった。「学校新聞王国は風土がつくった。風土は人と歴史がつくるものだ」と、教えたかったのである。前年とその年の2年連続で通算5度目の内閣総理大臣賞に選ばれた酒田市立平田中学校「平中タイムス」顧問、出嶋も被害者の1人だったが、その後「平中タイムス」を送ってくれるようになり、私は今も生き続ける学校新聞王国の息吹に直接接する機会を持つようになった。

  ところで風土の話。
「コンクール半世紀の軌跡と展望 1951-2000」という冊子が手元にある。毎日新聞学生新聞本部(現・「教育と新聞」推進本部)と全新研で01年3月に刊行した。編集に当たった私が一番力を注いだのは「新聞づくりの風土 庄内ルポ」だった。編集委員の横山健次郎・13代全新研会長と小川正典・毎日こども環境・文化研究所事務局長(当時)が特派員として現地取材に入った。
ナゾ解きに行き暮れた小川から概略の報告を聞いて、私は「その男を徹底的に取材せよ」と指示した。ルポは冒頭でこう描いている。
 「猛暑の庄内平野の取材行で2人はある男の存在の大きさと、その情熱を発展させた教育風土の厚みを肌で確認することになった。その男とは鶴岡市立朝暘第三小に教諭、教頭、校長と3度かかわった新聞の鬼・石田雄である」。
 石田は1953年、山形大学教育学部第1回卒業生として藤島小学校に赴任する。新米の石田を待っていた担当が学校新聞つくりだった。当時、庄内地方の小学校では校務分掌に学校新聞が位置付けられているところが多かったのだ。GHQ(連合国軍総司令部)主導で押し進められた戦後の教育民主化の中で「新聞づくり」は太い柱だった。「新採で文句も言えないし、生田先生(当時の学年主任の生田謹吾、後に鶴岡市教育長)が一緒にと言うなら大丈夫かな」と新聞教育の道に入ったと石田は特派員に語っている。

 その後、新聞教育の面白さにのめりこんでいった石田は多くの後輩をこの道に引き込んでいった。特に縁が深かった朝暘第三小は「庄内全体の養成所」と言われた。三小で新聞教育を学んだ先生たちが異動先でも新聞教育を活発に展開したのである。こうして石田らが立ち上げた山形県新聞教育研究協議会は全新研の中でも異彩を放ち続けるようになったのである。

 「王国の秘密」の歴史を簡潔に言うと以上のようなストーリーになるのだが、「今年度(06年度)のコンクールは文部科学大臣賞でした」と連絡をくれた平中タイムス顧問の出嶋に改めて聞いてみた。「この道に入るきっかけはなんでしたか」。出島の答えは意表を突いた。「新採のときの校務分掌でしたから」。戦後間もなくの教育改革の熱気が「校務分掌」の形で残され続けている?…。先生が忙しすぎるのか、力量、指導力の低下なのか、新聞づくりのような面倒にかかわるのは敬遠しがちな先生が増える中で「校務分掌」という言葉はいかにも新鮮だ。これも風土がなせることかもしれないと感じた。

 毎月発行されている「平中タイムス」のことは、このブログで<紙は石なり>(06年6月30日)<「いじめある」4割――衝撃の調査結果に全校が立ち上がる;酒田市立平田中>(07年2月13日)の2回取り上げた。特に印象的だった記事は同タイムスが昨年行ったいじめ撲滅キャンペーンだ。同紙のアンケートに同中生徒の約4割が「周囲にいじめがある」と回答したのは衝撃的だったが、それを真正面から取り上げ、キャンペーンに乗り出した編集部の骨太さに感動した。中学生らしい正義感と真摯な理想主義が同紙の特色である。

  さらに、感心したのは学校当局がこの記事を受けて「いじめを考える」時間を設けたことだ。新聞部のインタビューを受けた校長先生は「驚きました。でも正直に答えてくれて良かったです」と率直に回答。「まず誰かに話してほしい」と訴えている。平中タイムスに最大限の敬意を表した言葉として、きっと子どもたちの心に残るだろう。
  学校新聞が「公器」として機能している象徴的なケースだろう。学校新聞王国・山形の伝統が人を得て連綿とした風土を培っていくよう期待したい。(敬称略)

2007年2 月13日 (火)

「いじめある」4割――衝撃の調査結果に全校が立ち上がる;酒田市立平田中

~学校新聞「平中タイムス」がキャンペーン~
 「あなたの周りで『いじめ』と思われることはありませんか?」。秋田県酒田市立平田中学校の学校新聞「平中タイムス」が校内でこんなアンケートをしたところ、なんと4割もの生徒が「ある」と答えた。ショッキングな結果に同校では全校でいじめについて考える時間が持たれ、平中タイムスは続刊で「緊急特集・いじめ撲滅」を組んだ。

 同紙が「いじめ」調査を行ったのは昨年秋、全国でいじめ自殺が大きな社会問題となったころだった。「あなたの周りで『いじめ』と思われることはありませんか」との質問に1年生は37%、2年生40%、3年生36%が「ある」と答えた。「わからない」という答えも1年生32%、2年生44%、3年生29%に上った。「ある」と答えた75人に「それはどんないじめですか」と質問したところ51人が「陰口・悪口・からかいなど言葉の暴力」、18人が「無視や仲間はずれ」を挙げた。6人は「その他」に分類された。

 「平中タイムス」は昨年11月27日号でこの結果を伝え、アンケートを通じて集まった生徒たちの熱い思いを<自分がいる 友達がいる そして 生きている>の見出しで特集した。自由記述も紹介され「最低なことだ。でも反発できない。反発すると、もっとひどいことになることを知っているから」(2年生)など生徒の本音が並んだ。
この記事をきっかけに全校で「いじめを考える」時間が設けられ、どのクラスも改めて同紙を読み、考え、もう一度意見をみんなが書いたという。同紙は次号の同12月14日号で再び見開きの「緊急特集・いじめ撲滅」を展開した。

 特集には「情けない」と怒りの声が満ちあふれ「自分はこうしたよ」という体験談も掲載された。「これだけ思いやりのある学校なので、解決できない問題はない」(3年、石黒亘君)など多くの生徒が強い決意を表明している。

「こんなときあなたならどうする?実際に身のまわりで起こりそうな三つの問題について考えてもらいました」というコーナーでは①いつも人の悪口を言ってしまうA君へのアドバイス②友人から「あいつむかつくよな」と同意を求められたときの対応③からかわれ,いやなことをされて落ち込んでいる友人へのアドバイス、について生徒たちの考えを載せている。「良いところを見ようよ」「自分の心を汚してしまう」「私がいるよ そう言いたい」「いじめリーダーつくらないない」「勇気を出そう それが友達」などの見出しから、生徒たちの精一杯の思いが伝わってくる。
新聞部のインタビューを受けた校長先生は「驚きました。でも正直に答えてくれて良かったです」と率直に回答。「まず誰かに話してほしい」と訴えた。
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<谷口のコメント>
◎志の高さが生んだ秀逸キャンペーン◎
  平中タイムス(月刊)は全国の中学校の学校新聞で最高峰にある新聞だ。全国小・中学校PTA新聞コンクール」(毎日新聞社、全国新聞教育研究協議会共催)で昨年、一昨年の2年連続、内閣総理大臣賞を受賞している。顧問の出嶋睦子先生からこのほど届いた夏以降の新聞を読み進めるうちこのキャンペーンを知って瞠目、発刊からやや時間は経っているが取り上げた。調査総数や実施月日に触れていないなど課題はあるが、質問もフォロー紙面もよくできている。何よりも読んでいて気持ちがいいのは新聞を作る心の熱さが紙面から伝わってくることだ。また、生徒の実名がふんだんに登場することも信頼感を高めている。
 平中タイムスを読んでいていつも思うのは、その志しの高さだ。本来、14歳前後の中学生たちは夢と理想と正義感にあふれる世代のはず。その彼らが新聞と言う媒体を使って「学校直し」に乗り出すとき、仲間たちの信頼を集めないはずがない。それが驚愕の調査結果と秀逸のキャンペーンに結びついたのではなかろうか。

2007年2 月11日 (日)

書写シリーズ番外:放映に大反響

 日本テレビが11日夜のゴールデンタイム番組「世界の果てまでイッテQ」の中で中国ロケを放映した直後からこのブログにアクセスが殺到した。番組内容に興味を持った視聴者が「藤本梨絵」「日中」「書道」「対決」などのキーワードで検索した結果、このページにたどり着いたことがアクセス解析から明らかで、番組の関心の高さを示した。
 このブログでは他の項目でも書写書道を取り上げた記事があり、その一つ「提案:書く教育を強化しよう」に下記のようなコメントも匿名希望氏から同夜よせられた。
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今回の日中対決、大変興味深く拝見致しました。
私も小さい頃から書道を習ってきたので、藤本さんの字の素晴らしさも、中国のチャンさんの字の素晴らしさも、良く分かりましたが、藤本さんの字は彼女の人柄の様にとても素直でとても上手で、感動しました。
中国で投票することに意味があったのかもしれませんが、日本で投票していたら結果も違っていたのではないかと思います。

2007年1 月26日 (金)

シリーズ・書写を考える<5>

序章「中国に書写を問う 安徽省師弟旅」その5

 テレビ企画「日本・中国書道対決」の中国ロケを終えて帰国した日本書写能力検定委員会(書写検=本部・東京都青梅市)の渡邉啓子師範は25日、関空から羽田に戻り、竹橋の毎日新聞東京本社で開かれた全国年賀はがきコンクール(毎日新聞社、書写検共催)最終審査会に出席した。審査会での帰国報告で渡邉師範は「初めて日本の書写と中国の書の違いが映像で一般に伝えられることで、書写への理解が深まることが期待される」と語った。漢字の祖国・中国の書と日本の学校教育を担う書写の本番対決の模様は2月11日(日)午後8時から日本テレビで放映される。
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 ◎実用的な書写書道への理解が進むきっかけに ◎

――全国年賀はがきコンクールの概要は?
渡邉師範 課題、自由合わせて2万8千点の応募がありました。使うのはペンでも筆でもどちらでもいいのです。書写は毛筆と硬筆の関連性を重視しますから筆はややねかせて使います。だから毛筆の上手な人は硬筆も上手になるのです。一般書道でそうはいかないのは筆を立てて使うからで、硬筆に応用できないわけです。えんぴつや万年筆はねかせて使いますからね。

――中国の書も筆は立てて使うわけですね。
渡邉師範 そうです。今度の日中対決でも筆の運びの違いは歴然でした。もちろん、どちらがいいということではないのです。一般的な書道と書写の違いがそこにはっきりと現れるということです。学習指導要領で国語科の重要な一分野として定められている書写は正しく整った読み易い文字を目指しています。それが実用的に硬筆でも生かされることはとても大事なことだと思います。学校の先生方が必ずしも書写の専門家ではないので、書写を習っている子どもが学校で筆を立てて使うように直されてしまうことも起きています。そうした書写と一般的書道の相違が映像で伝えられる異議は大きいと思っています。昨日もお話しましたが、書写の文字が中国の書の専門家からも「すばらしい」と認められたこともうれしかったです。

◎文字文化振興に注目される書写5大会◎

――年賀はがきコンクールには今年から文化庁が後援に入ると聞きましたが。
渡辺師範 はいそうです。一昨年7月に文字・活字文化振興法が議員立法で成立しました。主務官庁の文化庁は文字を手書きする力を基盤的な言語力と位置付けておられます。後援をいただくことは書写の普及に寄与するものと喜んでいます。

――書写の全国大会には他にどのようなものがありますか。
渡邉師範 いずれも毎日新聞社との共催ですが、このあとすぐ「毎日学生書初め展覧会」があります。「毎日ひらがなかきかたコンクール」は幼児と小学校低学年が対象です。夏の「毎日学生書写書道展」は全国各地で席書の大会が繰り広げられ、最終審査は毎日東京本社で開かれます。今回の日中書道対決で日本代表として出場した都立拝島高校3年、藤本梨絵さんは昨夏の第30回記念大会で内閣総理大臣賞を獲得した文字通りの学生日本チャンピオンです。最後は「全国硬筆コンクール」ですが昨年の第22回大会では約3万8千点もの参加がありました。この書写5大会は文科省が価値ある文科系コンクールと認定する「学びんピック」事業に全て昨年度指定されました。

――駆け足旅行でしたが終えてみていかがですか。
渡邉師範 ひたすら寒かったです。師範学校に暖房はいっさいないのです。燃料事情のせいでしょうか。それでも学生たちは着物をたくさん着込んで寒さに耐えながら、本当に一生懸命に書に取り組むのです。藤本さんもその姿にはとても感心して学ぶところが多かったようでした。今回の旅行で得たことを生かしながら書を通じた日中の交流をさらに深め、広げていければと思います。
(序章おわり)
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「シリーズ・書写を考える」 

国際学力テストで日本の子どもたちの成績が下がったことに端を発した学力論議は、安倍内閣が最大の重要課題と位置付ける教育改革の中心的なテーマでもある。すでに中教審や文科省もこの問題に取り組んでいる中で、学力の基礎として「言葉の力」涵養が大事との意見が強まっている。新しい学習指導要領でも「言葉の力」がキーワードになる見通しだ。また、一昨年に成立した文字・活字文化振興法を展開していく上で基盤的な言語力として「文字を書く」力を重視する機運がある。一方で、書写は学校教育の中で十分な取り組みの対象になってこなかったとも言われ、未履修問題とのからみで文科省が実施中の国語科書写についての履修実態調査結果も注目される。我が国の伝統文化を支える基礎である文字にかつてない関心が高まる今、「書写を考える」シリーズを始めたい。
 おおまかなシリーズ構成は以下の通り(いずれも仮題)。第1部は2月下旬の連載開始予定。


第1部「総論・現代の書写教育~大平恵理氏聞き書き」
第2部「書写に見る一芸の力~多様化する大学入試で」
第3部「学校書写教育の現場」
第4部「現代寺子屋論~草の根の書塾」
第5部「文字文化振興と行政課題」

2007年1 月25日 (木)

シリーズ・書写を考える<4>

序章「中国に書写を問う 安徽省師弟旅」その4

 テレビ企画「日本・中国書道対決」の日本側代表、都立拝島高校3年、藤本梨絵さん(2006年毎日学生書写書道展チャンピオン)に付き添って番組収録を終えた日本書写能力検定委員会の渡邉啓子師範は24日午後11時半、関空に無事帰り着いた。2泊3日のハードスケジュールだったが、日本と中国の生徒が書で対決するという場面を通じて得たのは「日本の書写が中国で受け入れる傾向が強まっている」という感触だったという。本番対決の模様は2月11日(日)午後8時から日本テレビで放映される。
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 ◎「書写は素晴らしい」
       
藤本さんの作品を激賞した中国の書家◎

――徽州師範学校が対決の舞台でしたね。向こうの書の専門家は藤本梨絵さんの書写を見てどんな感想を漏らしてましたか。
渡邉師範 内容は番組で見ていただきたいのですが、とても注目されました。呉さんという40過ぎの男の先生は藤本梨絵さんの字を見て「文字というものには好みがあるが、これは大変に素晴らしい。とても上手だ」と私に言いました。私どもの過去の交流でも日本の書写を知らない土地ではなかなかこうした反応はなくて、蘇州市のように交流を重ねていくと、書写の良さを分かってもらい「日本の書写に学ぼう」(蘇州市幹部)とまで言ってくださるのですが。

――地元の反応はどうでしたか
渡邉師範 とても話題になっているようで私まで地元のテレビ局に取材されました。「日本は中国から漢字というものをいただいて今日の文化がある。書の字体には日中それぞれに良さがある」というコメントをさせていただきました。 

――徽州師範学校では学生の書道の自習時間も見学したのですね。
 渡邉師範 はい。日本の教室より一回りほど小さめの部屋で30人ほどの男女の学生が毛筆の練習をしていました。過去の交流でもいつも目にすることなのですが、中国の人は高机に紙を広げて立ったまま書くんですよ。座るという生活習慣がないところからきているのでしょうか。

――小中学校の教育は簡体字で行われていると聞きましたが、師範学校の学生たちは先生になった後で、毛筆を教えることはないのですか。
 渡邉師範 学生たちはペンなど硬筆の練習もするのだそうです。でも、教師になってから毛筆や硬筆を子どもたちにどう教えるのか、その辺の事情がよく分かりませんでした。通訳の人に質問の趣旨を説明するのもなかなかもどかしくて。今後の勉強にさせていただきます。

◎すさまじいネット社会ぶり◎

――中国はネット社会も急速に発展していると聞きますが、何か印象に残ったことはありますか。
 渡邉師範 車での移動途中にある田舎の町でトイレ休憩のためスーパーマーケットに立ち寄ったのです。そこの地下が広いネットカフエのようになっていいてパソコンが100台以上もあるのです。平日の夕方でしたが若者がいっぱい集まっていました。ゲームをやったりドラマを見たりしている人が多かったですね。

――帰りは上海から関空まで3時間。上海及び中国の印象はどうでしたか。
渡邉師範 上海はいつも素通りになってしまって。昨年3月に個人的に蘇州市へ旅行したときも通りました。上海から蘇州までは高速で1時間少々。そのときは過去の交流を通して知り合った人たち30人ほどと会いました。呉先生はじめ今回お会いした方々とも交流を深めていきたいと思いました。

Chine06

美術工芸品としても愛される書道具