« 日本語特区で考える人をつくろう | メイン | タラコの生態メモ »

2007年4 月 9日 (月)

シリーズ・書写を考える<6>第一部「書写教育の今日的意義を問う」①一芸の春

  日本の子どもたちの学力を高めるためには国語力をつけなくてはいけないという考えが強まっている。今年度中にもまとまる国の次期学習指導要領では国語力の涵養が柱になる見通しだ。国語力の中心は「言葉」への理解度とそれを使う力であり、言い換えれば「言葉の力」の強化が求められている。教育タイムズではこの観点から言語能力の基盤と言える「手書き」文字に注目、それを学ぶ書写教育の今日的意義を探る「シリーズ・書写を考える」を連載することにした。そのプロローグとなる序章<中国に書写を問う・安徽省師弟旅>は評論・ルポコーナーで1月22日から同26日まで5回にわたり掲載した。今回の第1部は書写教育の全般について日本書写能力検定委員会首席副会長、大平恵理氏へのインタビューを中心に構成、おおむね毎週1回、月曜日に更新する。

          第1部「書写教育の今日的意義を問う」
                               ~大平恵理氏インタビュー~

 その1<「一芸」の春>

  「書写」という言葉は聞きなれない人が多いかもしれない。書道の方が耳に慣れているが、学習指導要領に定義されたれっきとした教科の一部の名称だ。芸術書道に対して「学校書道」とも定義できるもので、文字を正しく整えて読みやすく書くことがその真髄である。日本書写能力検定員会(略称・書写検、本部・東京都青梅市)は我が国屈指の書写教育団体であり、全国各地に書写検の指導法と教材による書塾が展開している。民放テレビ局がこの1月に企画放映した番組「日中書道対決」では毎日新聞社と書写検が共催する毎日全国学生書写書道展06年大会で内閣総理大臣賞を獲得した都立高校3年生が日本代表に選ばれ中国に渡った。“ホームグラウンドジャッジ”で書写検代表選手は惜しくも敗れたが、その書写検文字の美しさは多くの日本人視聴者に感動を与えた。

 その書写検ホームページ(http://www.shoshaken.com/)を開いて目に付いたのは<入試に生きる書写書道>という特集である。いわゆる「一芸」で培った力が認められて大学に合格する書写検生が増えているということをアピールしているわけだ。

――今春はどういう状況なのですか?
 大平 今年は、6つの大学、8学科で計8人の合格報告がありました。一芸を生かしてAO入試や自己推薦入試等で合格を果たしているわけですが、新たな大学や専門分野に合格している一方で、同じ大学が継続して評価して下さっています。このような評価方法が広がっていること、一芸への信頼が高まっていることの両面を感じます。また、合格を果たされた皆さんについては、一芸を磨く中で自分に対する自信や誇りが着実に育まれて来たことを感じます。

 今春の合格実績では特に早稲田大学教育学部に3人を送り込んでいるのが目立つ。教育学部は自己推薦入試枠を充実させ、文系、理系の全国大会で優秀な成績をおさめた者や生徒会活動に打ちこんだ生徒等に光を当てる選考を行っている。単にペーパー学力だけでは分からない「学ぶ力」という潜在能力を評価するもので、早大では追跡調査でも選考の正しさが証明されているとしている。ペーパー試験の学力によらず、この潜在能力と今後への志を重視する自己推薦入試やAO入試は広がりを見せており、文科省は国立大学でも来年度以降、自己推薦とAO入試で50%までは合格させてよいとする方向を打ち出した。
 
――書写を学ぶことで身につく一芸の力とは何ですか? 
大平 まず、何より正しく整えて読みやすく書く力があげられます。これは看板書き、賞状書きなど実用に役立つ力でもあります。一芸として書く能力がつく中で、心の力として、一つの事に根気よく取り組む忍耐力、困難に遭っても最後までやり抜き意志を貫く精神力などが養われます。そして一芸の力も、両親、先輩、先生、お世話になった方を敬う心、仲間や後輩に慈しみや思いやりの心を持ててこそ、価値があると思います。

  書写検は毎日新聞と共催で全国硬筆コンクールなど5つの書写全国大会を共催している。いずれも文科省が優秀な全国大会にお墨付きを与える「学びんピック」認定大会である。子どもたちはコンクールで他の子どもたちと競い合い、自分の能力をぎりぎりまで高める努力を継続することを身につける。また、階段を上がるような検定システムも学ぶ力を養うことに効果があるという。

――書写検の検定システムはどのようなものですか?
大平 「順序よく学べば、必ず上達する」が検定システムで一貫している考え方です。硬筆(えんぴつ・ペン)、毛筆基礎(半紙)、行書、草書、古典かな、細字など種別で分けた13検定を設けています。全ての検定が、段階を追った120課題で構成されており、課題に挑戦するごとにS(4点)・A(3点)・B(2点)・C(1点)・D(不合格)の五段階評価をします。累計点による段級位の認定、繰り返しチャレンジする再受験の導入、指導者ライセンス制度の併設などが特徴です。

 
――なかなか遠大な検定システムですが、学習塾に行かなくとも書写にまい進していれば希望の大学に入れると言い切れますか。
大平 書写にまい進していれば希望の大学に入れるとも、逆に学習塾に行っていれば希望の大学に入れるとも言い切れないと思います。昨今、AO入試や自己推薦入試など一般入試以外に多様な入試制度が設けられ、書写という一芸を生かして希望の大学に合格を果たす方が増えています。でもこれは、書写にまい進して合格したのでなく、一芸を磨く中で豊かな人間性が育まれたからと考えています。

Ohira_3 大平恵理氏 1965年生まれ、東京都出身。小学2年生から書写を始め、吉田宏氏(書写検会長)に師事、数々の全国大会でグランプリを受賞。大東文化大学に進み書写書道を学ぶ。2005年から書写検首席副会長に就任、お手本、教材作成、講習会での指導を担当。著書に、字を書く楽しみ再発見!をキャッチフレーズにした「えんぴつ書き練習帳」(金園社)などがある。元来は左利きで、幼少の頃はよく鏡文字を書いていたなどのエピソードを残す。2児の母。

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
https://www.typepad.com/services/trackback/6a0128759be2a2970c0120a699f531970b

Listed below are links to weblogs that reference シリーズ・書写を考える<6>第一部「書写教育の今日的意義を問う」①一芸の春:

コメント

この記事へのコメントは終了しました。