タラコの心臓~その後~
タラコは3歳になった。心臓の病気は「3歳までの穴の閉じ方で、その後5、6歳までの予測がだいたいつく」と言われていた。その3歳になり、心臓の検診に行った。
結果は現状に変化なしだった。レントゲンも心電図もエコーもみたが、心臓の雑音の大きさも心臓への負担具合も変わっていなかった。
私は日々タラコの胸に耳を当てて、心臓の音を聞いているが、素人耳にも音に変化がないなと感じていたので、予想通りの診断だった。
予想通りとはいえ、やはり涙がじんわりしてきた。急ぐ必要はないが、時期をみて「カテーテル検査」する必要はあるだろう、ということだった。足からカテーテルという細い管を通して、心臓の穴の大きさを正確に見てみたりするという。
タラコは生後2ヶ月に心室中隔欠損と診断されてから、むくんでいる心臓の負担を減らすために利尿剤と血管拡張剤を飲んでいる。
子ども用だから薬はごく微量なので、糖分に混ぜ“かさ増し”して処方される。そうでないと、薬袋に薬がくっついてしまって、正確な量が飲めないからなのだという。つまり甘いわけで、タラコはけっこう進んで飲みたがる。
嫌がられては困るのだけど、アメなめるみたいに喜ばれるのも、何だかフクザツな気持ちだ。
検診の前日、「明日、A先生の病院に行くからね」と言うと「病院?タラコ、お風邪引いてるの?」と聞く。そうだな、3歳になり、物事を分かるようになってきたから、ちゃんと説明しよう、と思った。どう話したら理解されるか考え、こう言った。
「タラコもママもパパもおじいちゃんもおばあちゃんもお友達も、みんなみんな人は体の中にハートがあるの。でも、生まれたばかりの赤ちゃんのときから、タラコのハートはちょっと欠けちゃっているの。だから、A先生が赤ちゃんのときから“もしもし?タラちゃんのハートは元気ですか?”って診てくれているんだよ。タラちゃんのハートが元気になるためにお薬飲んでね、って言われているの」。
タラコは「ふーん、欠けちゃってるの。あら、たいへんね~」とわかったようなわかっていないような返事だった。
それから2週間くらいたったある日、突然タラコが「ねえ、ハートの話、して?」と言った。その瞬間何のことを言っているのかキョトンとしたら、「あのさ、欠けちゃってるの?」と聞く。あ…心臓のことか・・・ちゃんと聞いていたんだ・・・と胸がしめつけられた。
1年前、近くの公園で、ある小5の女の子に会った。この子がよくタラコの世話をしてくれて、優しい子だった。
元気に飛び回る子だったので「すごいね」と声かけたら、「でも、私、心臓の手術しているから、体育は得意じゃないよ」と胸の傷跡を見せてくれた。お母さんに話を聞くと、その子は「ファロー」という4つの症状が重なった先天性心疾患で1歳半で手術したという。
そしてそのお母さんは言った。「手術して治るなんてラッキーよ。手術しても治らない病気の子が病院にはたくさんいるよ。入院している間、亡くなっていく子もいてね・・・・・・。だから手術できる病気は病気じゃない。胸に傷跡は残るけど、大人になってヌード写真集は無理かもね、ってとこでしょ!」と明るく言い放った。
せつなくなると、このお母さんの話を思い出して、気を取り直す。
でも、「タラコ、ちょっとハート欠けちゃってるのね~」とタラコにつぶやかれると、やっぱりせつない。無邪気さが痛くって、息を吸っても吸っても・・・・・・胸が苦しい。
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