「大公無事」;潘基文(バンギムン)次期国連事務総長の色紙
どこか下町の飲み屋で出会っても、特に印象に残らないのではないか。それほど、日本のどこにでもいるオッサン風である。人情味のある中小企業の親父といったところか。6日、東京・内幸町の日本記者クラブで会見した次期国連事務総長、韓国の潘基文(バンギムン)外交通商相は実に日本人的であった。会見の終わりに司会者が「潘氏からこんなものをいただいた」と掲げて見せたのが毛筆で書かれた色紙。達者な漢字で「大公無事」と書かれている。「私が世界を背負っていくというほどの意味でしょうか」と司会者。意味はよく分からないが、肌の色も髪もそしてもともとの文字も同じ隣国の人が国連のトップに立つのだな、という感慨を抱いた。
70年にソウル大学を卒業して外務省に入り、国連の場で活躍した。司会者によると「世界有数のミスターUN(国連)」だという。その実力を買われて国連事務総長に選出され、来年1月に就任する。祖国の分断を背負った立場での国連トップ。日本にとっても北朝鮮が脅威となる中で関心の集まる人物である。午前中に安倍首相と会談してからこの会見に臨んだが、内外の記者が200人以上も詰め掛ける時の人である。
その潘氏はスピーチの冒頭で日韓の歴史問題に触れ「過去の歴史が韓日の関係に影を落とすことは収束させていくべきだ。そのためには韓日関係の重要性が深く確信されていくことが大切だ」と語った。そのときは、「やはり歴史問題に触れるのか。しかしソフトな言い回しだな」と聞き流したが、後で色紙を見て彼の言いたいことが理解できる気がした。
すでに戦後も60年が過ぎて、ことさらに膝を屈して謝罪する気持ちにはなりにくい。しかし、昨今の世界史履修逃れ問題を見ていても、長い年月にわたる植民地支配の歴史は、列強同様に正義に反した日本の負の歴史としてきちんと次世代に教えられなくてはなるまい。無知のゆえの無反省がまかり通っていないか、あるいは隣国への無関心を招いていないだろうか。1枚の色紙からそんな思いに飛躍したのだった。
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