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2006年10 月22日 (日)

「学校ホームページ」シリーズその1

<ページから人影が消えていく>

 ここ10年ほど学校ホームページを断続的にウオッチングしている。校内での子どもたちの生き生きした姿は日常的には見る機会がないだけに学校の様子がよく分かって楽しい。保護者らにも関心を持って見る人が少なくない。ところが近年、学校ホームページから人影が消える現象が進んでいる。

 今回は新潟県の中学校を訪問してみたが、全体に写真の数がますます減っているのに気付いた。生徒の姿が後ろ向きやボカシならまだしも、生徒の写真自体が1枚もない学校が何校も見つかった。フロントページに自慢の校舎の写真が1枚あるだけ、という具合だ。まるで申し合わせがあるようにどの学校も同じ状態という市もある。

写真が少ない学校のホームページは、コンテンツもなべて貧弱な印象だ。生徒の写真掲載自粛の掛け声に隠れてホームページを充実させる努力を放棄しているのでは、とさえ疑いたくなる。ただ、それは言い過ぎで、学校が様々なプレッシャーにさらされているのは間違いない。

◎学校長の認識次第◎

学校ホームページの取材を進めていて気付くのは、ページが充実するかどうかはひとえに学校長の理解度にかかっている、ということである。校長が、地域に学校を説明していくホームページの役割の大事さを理解していればいいが、逆にITに反感を抱く校長も少なくない。「学校を開く」ことへの不安が大きいのだろうと感じるケースも多い。最近もある中学校のホームページに勉強質問コーナーができてすぐに閉鎖になった例があった。子どもたちが掲示板に勉強について質問を書き込んで、先生方がそれに答える意欲的なコンテンツだったが、アダルト系の書き込みがされたことで校長の廃止命令が出たという。担当の先生はこまめに掲示板を監視していなかったことを悔やんでいたが、態勢ができるまで少しの猶予もできなかったのだろうか。

教育委員会や校長の無理解に拍車をかけているのが05年春から完全施行された個人情報保護法の存在だ。なんでも消しておけば安心、と生徒の姿がホームページから姿を消す大きな要因になった。

◎教委の隠蔽体質も影響◎

昨年のことだが、新聞で「生徒の姿が見えるページ作りを進めている中学校」という紹介記事を見て、甲信越地方のある中学校ページを訪ねて驚いた。人物といえば校長さんの顔写真が1枚きり。生徒は1人として登場しない。「いったい何があったのだろう」。キツネにつままれた気がした。記事掲載は5月。ページの最終更新履歴は7月だから、この間に何かが起きて変化があったのだろう。問い合わせ取材をしても困惑する学校側の顔が見えるようで確かめの電話を入れなかったが、たぶん校長か教育委員会あたりから「目立ち過ぎじゃないの」と圧力があったんじょだろう。新聞記事がマイナスに作用することはままあることだが、昨今のいじめ自殺問題でも明らかになった教育委員会の隠蔽体質はこうした面でもマイナスの影響を及ぼしている。

◎危機の実態の吟味を◎

「目立たない」という信条とホームページの機能は相反するものだ。しかし、よく事情を聴いてみると「目立つことの危険」がほとんど吟味されずに危機管理が先行しているケースがほとんどと言える。「万一」の中身が議論されないまま、「何か起きたとき誰が責任を取るのか」という方向に流れてしまいがちなのだ。

例えば、名前は書かないで女子生徒のアップ写真を掲載したとしょう。そのとき想定される事態はどういうものだろうか。女子生徒の顔に裸身の写真を合成するイタズラ写真が公開されたり、あるいは最悪の場合は誘拐が想定される。こうした犯罪の発生可能性はどれほどか、対処法はあるか、絶対に回避できないことなのか、などの議論が徹底されないとホームページに写真が載ることの負の部分ばかりが際限なく拡大されてしまう恐れがあると思う。そしてこの議論は学校だけでなく社会全体で行なう必要がある。結果的に学校だけを責めればいい、というのでは学校は逃げ腰にならざるを得ないからだ。

◎子どものアップ写真はどんどん載せよう◎

女子生徒でも男子生徒でも名前は別にしてアップ写真はどんどん載せたらいいというのが私の見解だが、そのことの危険について詳しく論じるのはまたの機会にしたい。校内や通学路、地域社会を含めた子どもの安全対策全体を語ることになるからだ。ただ、よく見られる保護者の掲載承認を取る努力だけでは責任の転嫁に終ってしまい、解決策にならないということは指摘しておきたい。

学校ホームページから人影が消える原因は個人情報保護法だけではない、基本的には学校ホームページの意義が学校経営の中できちんと認められていないところにあるのではないだろうか。

(つづく)

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