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2007年3 月 7日 (水)

 目立つ書写授業の3学期まとめ履修;文科省調査から浮かぶ

 公立中学校の10%は国語科書写の授業は3学期にまとめて行い、25%は書写の中でも毛筆授業は3学期にまとめて行う実態が文科省がこのほどまとめた中学校での必修教科履修調査結果から浮き彫りとなった(文科省ホームページ2月27日掲載)。文字教育の在り方として議論を呼びそうだ。

 この履修調査は、高校での履修逃れ問題の拡大を受けて、全ての国公私立中学校について06年12月20日現在で行った。国語科の必修領域なのにやらない中学校が多いと見られている書写については特に社会、理科などと並べて調査を行った。
 その結果、必修教科全般については国公立は履修状況に問題がある学校はなかったが、私立の72校で必修教科を学年ごとに開設していなかったり標準授業時数より著しく少ない時間しか教えていないなど不適切な取り扱いがあった。

 書写は学習指導要領で1年生は国語科時数(140時間)の2割程度、2、3年生は同(105時間)の1割程度を充てることとされている。書写は毛筆と硬筆で構成されるがその配分までは定めていない。しかし、毛筆は硬筆による書写能力を養う基礎と位置づけ、毛筆授業は各学年で行うこととされている。
 こうした規則に沿っているかを調べるため、調査ではまず書写の実施状況を12月20日現在で聞いた。その結果、国立78校中19%、63校が「いずれかの学年または全学年でまだ実施していない」と回答、公立では10、114校中10%、1019校、私立は699校中24%、171校が「まだ」と回答した。次いで同様に毛筆の実施状況を聞いたところ国立の44%、35校、公立の25%2、567校、私立の39%、276校が「まだ」と答えた。

12月20日といえば冬休み直前であり、書写授業の要である毛筆は中学校の4校に1校が3月期集中で行う実態が浮かんだ。国語教育の観点から、新出漢字に併せて字のはね、とめなど基本を毛筆で教えていくなど文字感覚を養う上でこの状況がいいのか問われなくてはいけないだろう。

 文科省教育課程課の坂下祐一専門官との一問一答は以下の通り。
――各教科の中で国語科については書写の履修状況を特に取り上げた理由は何ですか。
専門官 一部の報道で書写を履修していない中学校がある、との指摘があったからです。
――書写と毛筆に分けて聞いていますが書写の2大要素の毛筆と硬筆について聞くべきはありませんでしたか。
専門官 確かに検討の中ではその案もありましたし、都道府県が実施したケースでも毛筆と硬筆に分けているものもあります。ただ、調査項目を精選する必要と学習指導要領の定めたところに沿って調査を設計した結果、このような聞き方になりました。
――なぜ17年度実績を問わなかったのですか。
専門官 そのような考えはあるでしょう。この聞き方ではもともとの年間計画であるのかどうか分かりません。(学年終了直前の)今ごろの時点で調査を行えばその点ははっきりしたと思います。ただ、今回の調査が高校の履修問題にからむ国会審議の中で文科大臣が中学でも急遽現状調査をすると答弁したことに基づいて行ったものですし、高校履修問題が現状はどうかという点で検討されていた状況にも併せたものです。
――改めて実態(実績)調査をする予定はありますか。
専門官 ただいま現在予定があるかどうかと言うことであればございません。今後と言うことで会えれば、あるともないとも言えません。
――今回の調査はどういう意義があったとお考えですか。
専門官 全体状況を見て現状を再確認できた意義は大きいと思います。都道府県別の状況も参考になるのではないでしょうか。

<谷口のコメント>
◎現実の把握が急務◎
 12月20日現在で書写の履修状況を聞かれて「まだ」と答えた学校も、「今後も実施しないか?」と重ねて聞かれて「しない」と答える国公立校はあるだろうか。勘繰りではあるが、前年度までは履修逃れをしていたとしてもこうした調査をかぶせられた上は3学期にまとめてやろうとどの校長も考えるに違いない。こうした調査にならざるを得なかった事情は分かるが、やはりしり抜け覚悟の聞き方だったとの印象は否めない。

また、「書写は履修していますか」という聞き方も漠然としている。書写は毛筆と硬筆で構成されていることは前述の通りだが、「毛筆は」「硬筆は」と分けて履修状況を聞いてほしかった。「硬筆書写授業をやりましたか?」と聞かれて調査結果のように9割もの公立中が「はい」と胸を張って答えられるかどうか疑問だ。一般的な漢字練習などの中にまぎれさせていないだろうか。調査の狙いがざっくりとした履修問題に焦点があてられていたとしても、あいまいさを残す設問で残念だったと言わざるを得ない。
ただ、全体として国語科書写の毛筆授業を3学期集中型でやっている学校が4分の1に上ることが浮き彫りとなった。これはは問題だ。書写学習のねらいには「文字を正しく整えて読みやすく書く」ことがあり、中学校の書写ではこれに「速く」が加わる。合わせて4つの観点からねらいが説かれているが、「正しく」または「正確に」と言う点では、新出漢字を習うのと並行して学ぶことが、学習者の立場からはより効果的だ。また、「整えて読みやすく」については、文字感覚を養っていくという、文字文化の視点からの能力にも関わる観点である。だから感覚を養うということを成果として求めるのであれば、短期間にまとめて単位数をこなすような学習でなく、年間を通じて定期的に授業を設けて学習することがベストと言えるだろう。

 こうした問題とは別に11%の私立中学校が「今後も書写の履修予定はない」と回答しているのは残念だ。書写が日本の伝統文化の学習とも深く結びついていることなどを踏まえれば特色ある教育をしやすい私立でこそ書写教育の充実を期待したいものだ。

 いずれにしろ今回調査で書写教育の実際が明らかになったとは言い難く、本紙としても実態取材の必要性を痛感した次第だ。

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