遺族が実名報道を希望;今治市・中一男子のいじめ自殺
06年8月、いじめを苦に自殺した愛媛県今治市の中学1年男子生徒(12)の遺族が「このままでは世間に(事件が)忘れられてしまう。いじめ事件の歯止めになれば」と、少年の実名公表に踏み切った(毎日1月3日朝刊社会面)。
少年は同市の大三島にある中学1年、堀本弘士君。遺書に「もう3年間も(いじめが)続いていて、あきれます」などと書かれていた。小3のとき、服が泥だらけなのに気付いた母親が「いじめられている」と聞き出し、学校に相談していた。いじめはクラス中が知っていた。
祖父の鹿夫さん(79)は学校名や氏名の公表を拒んできた。大三島は小さな島だけに近隣に配慮したのだ。考えが変わったのは全国でいじめ自殺が相次いでいるのに教育関係者や親たちがいじめを防ぐ有効な手だてを真剣に考えていると思えなかったから。毎日新聞記者の改めての取材に、実名報道がいじめ自殺の歯止めになれば、と氏名公表に踏み切った。
<谷口のコメント>
◎次は大三島の中学校名公表だ◎
記事中に「毎日新聞の取材に対して実名公表に踏み切った」との趣旨の表現がある。事件から5ヶ月。記者が粘り強く接触を保っていたのだろうか。それにしても遺族の悲憤は思うに余りある。いじめ自殺が世間の大きな関心事になっていくのは瀬戸内海に浮かぶ大三島の事件からほぼ2ヵ月後、北海道滝川市での小6女児の自殺(05年9月)の市教委による原因隠ぺい発覚、福岡県筑前町での中2男子いじめ自殺が相次いだ10月以降だった。政府の教育再生会議や国会でも大きな問題として取り上げられながら、手だてが見つからない状況に「孫の名前と顔写真をさらしてでも歯止めになれば」と遺族は考えたに違いない。
大三島での事件発生時の紙面がどのようなものだったか検証していないが、この日の堀本弘士君の名前と顔写真が掲載された記事は、死者とその家族の悲しみ、不条理な死への怒りをリアルに伝えるアピール性の強いものになっている。校名も発生時は「今治市内のある公立中で」と最大限にぼかしていたのではないか。校名はこの日の記事でも「大三島にある中学」と表記されている。大三島に中学が幾つあるのか調べていないが、氏名公表と相まって、たぶん特定したのも同然の表記だろう。しかし、ここまで書きながら「大三島にある」中学とぼかしたのは記者の逡巡なのか優しさなのか。人間関係が濃密な島での取材は困難を伴うだろうが、続報に期待したい。
被害者からの実名アピールとしては、広島市で昨年11月、小学1年の木下あいりちゃん(7)がペルー国籍のヤギ被告に殺された殺人、強制わいせつ事件判決公判(広島地裁)を前に、あいりちゃんの父親が朝日新聞記者に心境を明らかにしたケース(24日朝刊社会面)がある。6月4日付けのこの欄でも取り上げたので参照していただきたい。
「性被害者でも実名報道を;女児殺害事件の遺族訴え」
http://toranosuke.typepad.jp/blog/2006/06/post_54a3.html
コメント