「何を教えるべきか」をもっと語れ;伊吹文科相緊急記者会見
「いやー、昔から存じ上げている方が多くてお話しし難いですね」。13日午後、内幸町の日本プレスセンターで開かれた記者会見に臨んだ伊吹文明文科相は開口一番こう語った。「緊急会見」と銘打たれているように現在最もホットなニュースの当事者の会見とあって10階ホールは200人近い記者が詰め掛けた。教育担当の社会部、政治部の現役記者の姿もあるが、圧倒的にOB記者の姿が多い。「昭和の初期に小学校教育を受けたのだが」。こんな前をふって質問をする人もいた。
「いったい最近の日本はどうなっているのか」。開会前、あちこちで聞かれた会話である。この日のお昼のNHKニュースはトップから延々3件も4件も子どもや先生の自殺が取り上げられていた。うんざりであり、不気味だ。しかし、この状況がひとり文科省の責任でないのは明らかだし、文科相が緊急会見したところで何かいい知恵を発表できるはずもない。最初から何が緊急なのかよく分からない会見だったが、案の定、ほとんど新味のないものだったのはいたし方ないだろう。
ただ、毎週火曜と金曜の朝、閣議後会見を文部記者会相手にやっている伊吹氏としては、トピックはそちらのほうで散々やっているので日本記者クラブでは教育荒廃のよって来たる背景や教育改革の思想について語ろうと考えたのだろう。トピックに関しては質問に答えるだけにし、最初の30分ほどは保守とリベラルの考え方の違いなど広く高次な見地からか改革を語った。この内容については半月ほどのうちに日本記者クラブホームページ(http://www.jnpc.or.jp/)に会見速記録がでるだろうから、ゆっくり読み返してみたい。なかなか座標軸のしっかりした政治家との印象を受けた。
しかし意図は分かるが物足りなかったのは、子どもたちに何を教えればいいのか、という見地からの発言がほとんどなかったことだ。「美しい日本語も話せないのに小学校で英語をやる必要はない」と語ったという伊吹氏だけに、もっと何を教え、何がいらないのかはっきりと語ってくれることを期待していたから残念だった。教育の真髄は、何を教えることで子どもたちがどう変容するか、というところにあるのではないか。彼自身も指摘する戦後社会のゆがみが学校教育のどのような不足から生まれ、是正していくためには何を教えなくてはいけないか、という角度からの発言がほしかった。
同氏は官邸主導の教育再生会議に対しては「中教審の分科会でやるようなちまちましたことをやっても仕方がない」とけん制した。言いたいことは分かるし。その通りだが、教える内容の論議は決してちまちましたものではなく、根幹の論議である。例えば「命を大事にする」気持ちを子どもたちに植え付けるには何をどう教えるか、また例えば日本文化の根幹をなす文字教育を充実させるためにはどうするか、こうしたことを大いに論議するときだ。広く家庭のあり方、地域社会の教育力について論議することもこの際やるべきだが、「学校で何を教えるか、その優先度」をもう一度根本から見直す作業が改革の中心にぜひあるべきだと改めて思った。
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