書写書道
「ドーン」。日本武道館(東京・九段)の広い円形空間に大太鼓の音が1つ、勢い良く響いた。板張りのフロアに座り込んで展開している子どもたちが半切紙に向かって一斉に筆を執るる。第43回全日本書初め大展覧会席書大会は5日、正月休み返上で課題の練習に取り組んできた子どもたちを集めて盛大に開かれた。
自分が相談役を務めている日本書写能力検定委員会(本部・青梅市)に関係する各書写団体から計300人近い子どもたちが出場するので応援に駆けつけた。午後1時過ぎからの競技に備え、朝6時からの特訓を済ませ、主に東京の西端からバスで高速を1時間以上もかけてやってきた子どもたちは3歳児から小、中学生を中心に高校生、大学生もいる。会場に入ると顔見知りの子どもたちが何人も礼儀正しいあいさつを送ってくれた。
席書きは会場に集合した人たちが制限時間内にお手本なしで同じ課題を2枚書いて、そのうち良くかけた1枚を提出して優劣を競う競技。いわば一発勝負で「書の格闘技」とも言える。人に倍する練習と、その成果を本番で発揮できる精神力、集中力が決め手だ。この日の制限時間は24分。同席書大会の参加者は3000人近いと言われ、6回に分けて行われた。あの広い武道館も500人が紙を広げれば一杯となるからだ。
「春の山里」「平和な国」・・・。武道場全面を埋めた子どもたちが、学年によって異なる課題に真剣に取り組む様子は壮観だ。パソコン全盛の昨今、究極の手書きとも言える毛筆の存在感は希薄になる一方だが、一点一画をゆるがせにしないで文字を追うその作業は、文字への深い思いを育てずにはおかない。日本語、文字への愛着を子どもたちは持つことになる。
「言の葉の国」と言われるわが日本で書写書道は深い精神性を帯びるゆえに戦後の一時期、軍国主義を助長した装置だったとして学校から追放された。GHQ(連合国軍総司令部)の指令により7年間、学校で筆を持つことは禁止された歴史がある。戦前の学校教育全体が忠君愛国のために動員されたのは動かない歴史的事実だが、書写書道が修身教科と同列の断罪を受けるいわれは全くない。
新聞社のジュニア紙担当時代から子どもが書写書道に打ち込むことの有効性には注目してきた。書は精神を引き締め、集中して臨まなければできないからだ。毎年夏に全国で地方大会が展開される「毎日全国学生書写書道展」では計1万人近い子どもたちが席書きに臨む。その姿を見ようと全国の会場を訪ねたが、どの子も安心できるまっすぐな子ばかりだった。
学校の国語教科の大事な領域としてカリキュラムに入れられながら、戦前のトラウマと受験万能主義がはびこる中で影が薄いままに来た書写の隆盛を図ることも大事な教育改革・・・そんな思いにとらわれていると、タイムアップを知らせる大太鼓が2回「ドーン ドーン」と響き渡った。
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