タラコの心臓~手術
手術の前日、執刀医の高橋幸宏先生から説明があるということで、面談室に呼ばれました。
タラコの命をゆだねる人物とはどんな人なんだろうかと、どきどきしながら部屋に入りました。
細身で背が高く、やや長髪、鋭い眼差し、薄い唇・・・とてもクールで若々しく、まるでアーティストのような雰囲気。ちょっとびっくりしました。しかし、その説明は、淡々と冷静で落ち着いたもので、貫禄と威厳に満ちていました。
説明を聞きながら、先生の手を見つめていました。
「あぁ・・・この人のこの手がタラコの胸を開き、そして親の私でも見たことも触ったこともないタラコの心臓をつかむんだな・・・」って。
すらりとした指。「この指に、多くの子供たちの心臓を治す、とてつもない技量があるんだな・・」。
夜が明け、朝の6時半から浣腸やら麻酔やら、タラコの激しい抵抗のなかでも着々と準備は進められました。
刻一刻とその時は近づき、部屋にストレッチャーの迎えがきました。麻酔でぐらんぐらん揺れながらも「お母さんがいい」というので、私がだっこして、ストレッチャーにうつしたとたん、すごいスピードで看護婦さんは歩き出し、あっという間に立ち入り禁止の扉の向こうへタラコを連れて行ってしまいました。あのスピードは、きっと親と子の動揺を断ち切るためなんだろうな、と。
2階のICU前のラウンジで待機です。
私の父と母も来ました。おじいちゃんはにぎやかな性格なので、こういう重い空気に堪えられず余計にしゃべろうとする悪い癖があります。
しかし、夫が「おじいちゃん、無理してしゃべらなくていいから」といさめたので、張り詰めた静かな空間にもどりました。
祈りました。とにかく祈りました。頑張れ、頑張れ。私の体から発することができるパワーは全て送りきるように、力を込め続けました。
そして、首からかけたハートのペンダントをぎゅっと握りました。
このペンダントは、以前、タラコが幼稚園で粘土とビーズで作ってきたもので、特にかまうこともなくおもちゃ箱に入ったままのものだったのに、なぜか、入院する朝、タラコが「これ持っていく」と言い出したのです。
突然どうしたの?と思ったのですが、その時、私にはこのペンダントがタラコの元気な心臓のように見えたのです。そして「手術のお守りにしよう」と思い、持っていくことに賛成しました。
長かったような、短かったような・・・1時間半がすぎたころ、扉が開きました。
手術は無事終わりました。
術後の管理のため、明日朝までタラコはICUに入ったままです。
ホッとするより、やはり明朝9時にタラコに会うまでは安心できない気持ちでした。
しかし、とにかく、ハートのお守りをぐっと自分の胸に強く押し当てて、「よく頑張った。ありがとうございます」と心のなかで大きく大きく叫びました。
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