手書き文字文化は生き残るか?財団法人「文字・活字文化推進機構」設立
「言葉の力」向上を合言葉に、東京・神田の一橋記念講堂で24日開かれた財団法人「文字・活字文化推進機構」設立記念総会に参加した。一昨年、文字・活字文化振興法が超党派の議員立法で成立して以来この運動に関心を持ってきたが、運動の一歩前進を示すのがこの設立総会だろう。資生堂会長の福原義春氏が機構会長を務め、作家で日本ペンクラブ会長、阿刀田高氏が副会長、童話作家の肥田美代子さんが理事長を務めるという布陣。この運動がどこまで草の根に刺さっていくか、機構の努力に期待したいし、文字・文章教育に日ごろ関係する者として草の根からこの運動に参加していきたいと思っている。
この設立総会には日本書写能力検定委員会(書写検)の大平恵理会長代理、渡邊啓子事務局長、池田圭子理事の女性3人を誘って参加した。彼女らは学校書道である「書写」教育の面からこの運動に注目しているもので、書写検では今春から、学校の授業で「書写」を活発にしようという「教学キャリア」運動を全国の書写検グループ書塾とともに展開している。文字・活字離れの昨今、文字の手書きという作業は若者の日常からほとんど姿を消していると言っても過言ではない。それだけに、この教学キャリア運動の前途も厳しいものがあるが、こうした文字文化振興の国民的運動が起きようとしている状態は追い風で、とても心強い。
しかし、予想通りというか、設立総会では何人かの来賓がスピーチしたが、文字を書く文化に言及した人は皆無だった。活字議連会長の中川秀直氏(前自民党幹事長)がわずかに「読む力、書く力という言語能力の涵養」に触れたぐらいだったが、その場合の「書く」も文章を書く、という意味合いだろう。一ヶ月に一冊も本を読まない大人が激増している昨今、「書く」どころでないのは分かるが、書写に係わる者としては手書きの教育的、文化的効果ももっと世に問いたいところだ。
手書き文化の将来の厳しさを改めて認識した総会だったが、少し気が晴れたのは川島隆太・東北大学教授の記念講演。川島教授は脳の活性化の研究で有名だが、同教授によると文字を手書きしているとき、人間の脳はフル回転し血流の測定機は真っ赤に表示されるという。逆にワープロ機能で文章を打っているときの脳はむしろ小休止状態になるが、それはワープロが脳の機能の代わりをしてくれているからだという。つまり、手書きは脳を動かし活性化することにもつながるというわけで、それはたぶん、文化創造という観点からはとても重要なことではなかろうか。ややうさんくさく思っていた脳トレ流行だが、少し勉強してみようと思った。
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