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2008年9 月18日 (木)

最期の蝉

昼間の暑さもだいぶ和らいできたので、久しぶりに光が丘公園に遊びに行った
行く夏を惜しむように蝉が声をふりしぼっていた

ふと地面に目を落とすと、穴がいくつも開いていた
何年も地中で眠っていた蝉がこの穴から出てきて木に登り、脱皮をして鳴いているというわけか
・・・などと、思っていたら、
顔にバチン!と何かが当たった

思わず手で振り払ったら、1匹の蝉が落ちていた
タラコが「蝉さんだ!」と近寄った

もう最期が近いのだろう
羽をジジッ、ジジッとならし震えているみたい
やがて、這いつくばうように私の足に向かって歩き出した

その歩みはジリジリと引きずるようなのに
一点を目指して猛進するような気迫に満ちていた
小さくて今にも死にそうな虫にすぎないのに
怖くなって、思わず逃げた

すると蝉はしばし立ち止まり、ゆっくりと方向を変え、電灯の鉄柱に向かって進みだした
その鉄柱まで距離は、大人の歩幅で2歩ほど

タラコが「おい、どこにいくの?」と蝉に聞いている
「もしかして、蝉さん、もう一度木に登りたいんじゃないかな」と答えた
タラコが「がんばれ、がんばれ」と蝉の歩みを応援する
10分はかかったろう
息も絶え絶えなのか、休み休み、蝉は鉄柱にたどり着いた
そして、やっぱり登り始めた!

老いた蝉には、鉄柱と本物の木の区別もつかなかったのかもしれない
本当の木もすぐ隣にあるというのに

足がぶるぶる震えている
鉄柱の根元は泥で汚れてざらざらしていた
その凹凸に何とか足を1本、さらに何とかもう1本掛けた

這い上がる 這い上がる
もう一度、木の上で鳴きたいんだ
もう一度、木の上で鳴きたいんだ
そう叫んでいるみたいだ
すさまじいエネルギーを放っている

グイッ・・・ グイッ・・・ グイッ・・・ と登って、ようやく後ろ足が地面から離れた
地面からわずか5センチくらいであるけど
蝉は鉄柱に登った!
タラコと私は、思わず拍手した

と、その瞬間、パサッと落ちた
仰向けになって、動かない・・・動かない・・・

「力尽きたんだね。天国へ逝ったんだよ。さあ、手を合わせて、蝉さんにお礼を言おう」
「蝉さん、暑い夏の間、お疲れ様でした。ゆっくり眠ってください・・・」
私が言った後を、タラコが真似して繰り返したそのとき
突然、蝉がバサバサバサバサバサッと足を激しく動かし、もがき出したのだ!
タラコも私もびっくりして
「蝉さんにタラちゃんの声が聞こえたんだよ!もう一回起きたいのかも!」と
葉っぱでそっと蝉を起こしてみた

すると、再び蝉は鉄柱に向かって登り始めた!
「すごい!すごいよ!蝉さん!」タラコが懸命に声を掛けた
でも、やはり・・・2,3歩掛けてパサッと落ちた

もう一度、葉っぱで起こしてやる気にはなれなかった
このまま自然に死なせてあげたい
もう十分がんばったよ。すごい力を見せてもらったよ。ありがとう。ありがとう。

「このままそっとしておいてあげよう」
うなづくタラコと公園を後にした

自転車の後ろの席からタラコが言った
「ねえ・・・私、涙こぼれそうになっちゃった・・・」
「そうだね・・・」とだけ答えて
ただただ前を向いて、黙ってペダルをこぎ続けた

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